2018年8月8日 横須賀 武彦

腸内フローラだけでなく、子宮内フローラも大事

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腸内や皮膚、口の中といった身体の中には、様々な菌が住み着いています。

宿主であるヒトと共生する常在菌の多くは、利益をもたらすことが多く、病気を引き起こす可能性のある悪玉菌を排除することで、感染に対する防御の第一線を構成すると考えられています。

健康な女性の腟内も例外ではありません。


腟内には、ラクトバチルス属の細菌が豊富に存在しており、細菌性腟症、酵母感染症、性感染症および尿路感染症の原因となる病原体の繁殖を予防していると考えられています[1,2]。

もし、雑菌が子宮けい管を通過して子宮に到達すると、不妊の原因となる子宮内膜炎、卵管炎、骨髄腹膜炎が起きる可能性があります[3]。また、細菌性腟症の妊婦では、自然流産のリスクが9.91倍、早産のリスクが2.19倍に上がることが報告されています[4]。


善玉菌(ラクトバチルス属の菌)がつくる乳酸には、腟内の雑菌の増殖を防いだり、病原体を死滅させる効果があります[5]。

善玉菌は、女性ホルモンによって腟上皮細胞より分泌されるグリコ ーゲン由来の 物質を代謝することで乳酸を生成しています。 女性が分泌するホルモンによって善玉菌が増え、女性の腟内の環境が保たれます。

女性と善玉菌はお互いになくてはならない存在なのです。


近年になって、無菌だと考えられていた子宮にも菌が存在することがわかりました。

感度の高い解析技術を用いることで、腸内の菌の集合体「腸内フローラ」のように、「子宮内フローラ」を構成する菌の割合を調べられるようになりました。

 
2015年、米国ラトガース大学の研究者らは、子宮内に善玉菌が存在することを発見し、善玉菌が着床時の免疫に影響を与える可能性を指摘しました[6]。
その後、2016年、米国スタンフォード大学の研究者らが、妊娠成功群と妊娠不成功群で善玉菌の量を調べたところ、妊娠不成功群では善玉菌が少ない傾向にあることを見つけました[7]。

さらに、子宮体癌や子宮内膜症と関わる菌も発見され、子宮内の菌環境と女性の健康が密接にかかわっている可能性が次々と報告されています。

参考文献

[1] Nunn KL (2016) Unraveling the Dynamics of the Human Vaginal Microbiome.

[2] Ma B (2012) The vaginal microbiome: rethinking health and diseases.

[3] 日本性感染症学会 (2008) 細菌性腟症ガイドライン

[4] Leitich H (2003) Bacterial vaginosis as a risk factor for preterm delivery: a meta-analysis.

[5] Tachedjian G (2017) The role of lactic acid production by probiotic Lactobacillus species in vaginal health.

[6] Franasiak JM (2016) Endometrial microbiome at the time of embryo transfer: next-generation sequencing of the 16S ribosomal subunit.

[7] Moreno I (2016) Evidence that the endometrial microbiota has an effect on implantation success or failure.

 

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この記事を書いた人

横須賀 武彦

バンコク在住、(株)ジェイ・ウェッブ・クリエーション代表。1997年にバンコクへ移住し、現地工場長を経て2004年に会社設立。現在はバンコクで医療系の情報提供と起業支援を中心に活動中。日本国内で年に2回ほど個別相談会も開催しています。1952年生まれで茨城県水戸市出身、在タイ20年超